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先日、このブログで、同級生の実家が特殊詐欺の被害にあった、という話を書いた。

あのときは、どちらかと言えば「ひどい話だなぁ」という感情のほうが先に立っていたのだけど、
少し時間が経って、ふと冷静に眺めてみると、別の引っかかりが残っている。

労せずして金銭を得ること。
これ自体は、たぶん多くの人の中に、うっすらとでも存在している欲望なのだと思う。

宝くじで高額当選するとか、
ギャンブルで思いがけず大穴を当てるとか。

誰にも迷惑をかけずに、ぽんと手に入るお金。
そういう話を聞けば、完全に無関心でいられる人のほうが少ない気もする。

ただ、それを「よし」とできるかどうかは、
やっぱり手段に左右される。

他人を騙して金銭を得る。
ここに関しては、僕の中では、どうにも線が引かれてしまっている。

良い悪い以前に、
それをやってしまったあと、自分で自分のことをどう扱えばいいのかが、ちょっと想像できない。

だから、そういうことに手を出す人たちの感覚が正直わからない。
わからない、というより、うまく想像が追いつかない。

人を騙すという行為は、
やる側にとっても、それなりに不快なものなんじゃないか、と思っている。

「やってはいけないことをやっている」という感覚。
それはたぶん、本来どこかでブレーキのように働くもののはずで、
それでもなお踏み越えていく、その内側がどうなっているのか。

まぁ、そんなことを考えていたら、
少しだけ思い出したことがある。

騙す、というほど大げさではないのだけど、
「真実を言わない側」に立ったことがあった。

職場のある人物が、退職を決めていた。
上の部署はそれを把握していて、退職日も決まっている。

ただし、本人の強い希望で、同僚には伏せておきたい。
その事情を、なぜか僕だけが先に知ってしまった。

当然、「絶対に口外しないように」という話になる。
それ自体は理解できるし、約束として飲み込んだ。

ただ、そのあとが、なかなかに面倒だった。

辞めることがわかっている人に、新しい仕事は振れない。
かといって、何も任せないでいると、周囲は違和感を持つ。

「なんであの人だけ楽なんだ」とか、
「なんでこのタイミングで外れるんだ」とか。

そういう空気が、じわじわと広がっていく。

本当の理由は言えない。
でも、不自然にも見せたくない。

そのあいだで、
それっぽい理由を用意したり、
話の流れをうまくずらしたり、
まぁ、いろいろと細工をすることになる。

あれは、たしかに「騙している」という感覚に近かった。

悪意があるわけではないし、
誰かを傷つけようとしているわけでもない。

それでも、
本当のことを伏せて、その場を取り繕う。

その状態が、思っていたよりも、じわじわと効いてくる。

気持ちが落ち着かない、というか、
どこかに軽い違和感がずっと残る。

自分の中の、どこかが少しずつ削れていくような、
そんな感覚だった。

こういう種類の「嘘」ですらそうなのだから、
意図的に人を騙してお金を取る、という行為が、
どれだけのものなのか。

まぁ、うまく言えないのだけど。

ここまで考えてきて、
ふと思う。

僕が当たり前のように持っている「良心」みたいなもの。
これって、いったい何に作用しているのだろうか、と。

世界の平和に寄与している、なんて言うと、
少し大げさにも聞こえるのだけど。

ただ、誰かを騙さないとか、
言わなくてもいい嘘を重ねないとか、
そういう小さな選択があることで、
人と人とのあいだに、妙な疑いを持たずに済む状態が保たれている。

たぶんそれは、何かを良くしているというより、
壊れないようにしている、に近い。

目に見えて何かが変わるわけではないし、
評価されるものでもないのだけど、
それがあるから、わりと何事もなく日常が回っている。

そう考えると、
さっき感じていたあの違和感も、
自分の中のその線が、少し揺らいでいたからなのかもしれない。

結局のところ、
最後に残るのは、「モラル」みたいなものなのだと思う。

法律とか、損得とか、そういう話よりも前に、
自分の中で、どこまでを許すのか。

その線引きが、
その人の輪郭そのものなのかもしれない。

そしてその線は、
思っているよりも静かで、曖昧で、
でも、踏み越えるとちゃんと何かが変わってしまう。

そんな類のものなのだろうな、と思う。
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