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人は、
ひそかに気にしていることを、
他人から不意に突かれて、
狼狽することがある。

他人に気づかれたくない部分、
無意識のうちに触れられると、
突然、自分の内面がさらけ出されたように感じ、
慌てたり、動揺したりすることがある。

僕にもそういう経験はある。

それは、自己防衛本能が働く瞬間なのかもしれない。

しかし、同時に、
“自分が気にしていたという事実”をさらしてしまうことでもある。

サラリーマン時代の直属の上司Hさん、
当時は40代半ばというところか、
結婚はしていたものの、
奥様が身体が弱かったせいもあり、
お子さんには恵まれなかった。

僕は事情をよく知っていただけに、
新入社員だったり、
他部署から異動してくる人には、
先に耳打ちすうちして、
「Hさんには“お子さんは?”はタブーだから絶対に触れないように!」
ってクギ刺しておく。
それにもかかわらず、聞いちゃうやつがいて…
そうすると大変なんだ。

だいたいが、
歓送迎会とかの席で起きる。

「いないんだよ…」
「うちは家内が身体が弱く…」
って、くどくど説明を始めるも、
だんだん鼻息が荒くなってきて、
「子供なんてなぁ、どうしてもほしけりゃもらってくりゃぁいいんだよ!」
とか聞いたこと以上の展開になってくる。
聞いた方も、
その勢いに、
タブーに触れてしまったことを思い知らされるのだった。

もう、それで雰囲気は悪くなるわ…
一段落すると、
Kさんの周りからはさーっと人が去って行く。

さすがに一人にしておけないと、
僕が気遣って、
その場を取り繕う。
上司の不穏な気分を別の方に向かせるために仕事の相談なんかしてみたり。

あぁ、あのときは苦労したなぁ。

件の上司、
もう明らかに、子供が居ないことにコンプレックスを持っていて、
それを悟られないがために、
あれやこれやと言葉を尽くすのだが、
それが痛々しくて見ていられなかった。

いろいろな家庭があって、
みな抱えている事情もそれぞれで、
仕方がないとは思うのだけど…

今の時代、
価値観の違いも割と認められる世の中になったのと、
暗黙のルール的には、
話のきっかけであっても、
職場ではあまり家庭のことに立ち入らない空気が支配しているように思うが、

ある程度の年齢になっていたら、
結婚はしているだろうし、
子供も何人かいるに違いない、
という昔のスタンダードは、
当たり前じゃなくなっているようにも思う。

だからこそ今、
僕らは「当たり前」を疑い、
相手の背後にある事情や心情に思いを馳せながら、
慎重な言葉選びが必要なのだと思う。

何気ない一言が、誰かの心の奥に触れてしまうことがある。
無意識の善意が、誰かの長年抱えてきた内なる痛みにふれてしまうこともある。

だからせめて、
言葉の矢を放つ前に、
その矢がどこへ向かうのか、
ほんの一瞬でも、
考える習慣を持べきなのかもしれない、
と思うのだ。

ちょっと息苦しい感じもする。

気遣いすぎかな…

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