僕の、亡くなったばあちゃんは、
確か明治43年生まれ。

ばあちゃんにとっては僕が初孫だったものだから、
僕は随分と可愛がってもらった。

地味な感じだったけど、
いつも優しくて良いばあちゃんだった。

そんなばあちゃんの姿を想い起こすと、
大体スタンダードなスタイルは、
茶系色の着物に、そうだなグレーというよりはねずみ色といったほうがいいだろう割烹着と、そんな感じだった。
その年代生まれの人、特に女性は地味な感じが多かったように思う。

さて、
そのうちのばあちゃんだが、
ある時、家の入り口で転倒してしまい、
大腿骨骨折という大怪我をしてしまう。

それだけの大怪我ゆえ、
骨折箇所をボルトで固定するというなかなかの大手術を行い、
しばしの入院生活。

退院後も、杖をつく生活を強いられることになった。

そこで考えなければいけないのは、普段の衣類について。

さきに、触れたように、普段着物での生活をずっとしてきたけど、
できるだけ脱ぎ着が容易でなくてはいけないし、
何より動きやすい格好をしなくては、というわけで退院後の生活では、
いままでどおりとはなかなかいかない。

そこで、ズボンとシャツのようなスタイルになるわけだけど…

うちの母が衣類を見つくろって買ってくると、
ちょっと怪訝な顔をするばあちゃん。

ズボンはブルーがかったグレー。
これはいいらしい。

買ってきた上着のシャツはどんな感じだったかというと、
夏場だったので通気性のよさそうな生地で、
藤色地に黒の水玉模様のシャツだった。
これに難色を示したのだ…

僕や母からすると、
えっ?何が不満?普通じゃない?っていう感じなのだけど、

ばあちゃん曰くだ、、、
「急にこんな水玉模様の派手な服着て近所を歩いたら、あのばばぁ頭がおかしくなったんじゃないか?と思われるわよ…」
と真顔で懸念している。

「あはははは、なんだそんなこと思っていたの?」
「これくらいで派手なんていうことないし、むしろ地味目って言えるくらいじゃないの〜?」
「普段が地味すぎたんでしょ…」
と、僕と母から笑われる始末。

「あらそぅなの…」
「そういうものなのかしら…」
とまだ完全に納得いっていない様子。

と、どうなんだろう?明治女は地味こそ良しとか思っていたのかどうかは定かではないが、
自分を着飾るとかファッションなどというものにまるで意識を向けてこなかったことがうかがい知れる。

そんなばあちゃんを説得?して、
そのファッションに着替えて、なお不安そうだったので、
近所まで買い物に一緒に行くことにした。

ご近所さんに途中で会うも、
へんな目で見られることもなく、
ファッションについて触れられることもなく、
みな自然な対応だった。

「ね?ばあちゃんがそんな風に思うほどおかしな恰好じゃなくて、これが普通なんだよ。」
と僕。
「そうなのね」
と、若干不信感もありつつも納得しようとするばあちゃん。

後々聞けば、
近所にその恰好で出るのにドキドキだったという。

こっちからしてみれば、
あまりにチキンすぎて、
笑っちゃう話だけどね…

また、地域によっては他人のプライバシーに踏み入るのが大好きな人たちが暮らすところがあり、当然そんなところじゃ他人の目がウザイしね…
ちょっと目立ったことすると翌日にはもう噂が立っているとか。
そんなところで育った人は他人の目がとくに氣になるらしいし。

わからないでもないけど。

恐れるもの、怖いもの、
なにを対象にして恐れるかって、
人によりけりだとは思うんだけど、

それは、その人がどんな信念を持っているかで決まってくる。

派手な格好をする人=氣が狂った人
派手の基準
歳相応の恰好をしなくてはいけない
ばあちゃんはこんな信念を持っていたのだろうか?
人は、他人からしてみるとさまざま予想外の信念を持っているものだと思った。

あの日は今日みたいな暑い日だったな…
と、ふとあの日を思い出してしたためてみた話。

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